2015/7/25

ヒメイカの摂餌生態

飼育展示第一課 春日井 隆

ヒメイカは沿岸のアマモ場などに生息し、大きくなっても全長で3cmに満たない、世界で最も小さなイカの仲間です。イカやタコの仲間は頭足類と呼ばれるグループに属する軟体動物です。頭足類は一般に獰猛な肉食ハンターであり、魚類、甲殻類などを餌としていますが、口は小さいため、丸のみにすることは少なく、口部の、俗に“カラス・トンビ”と呼ばれる顎板を用いて、捕えた獲物をバリバリかみ砕いて食べます。ヒメイカを飼育する時には小型の生きたアミやエビを与えますが、与えた餌をすべて食べるのではなく、食べた後にいつも何かを捨てる行動が確認されました。捨てたものを取り上げて詳しく観察してみると、これらは与えたアミやエビの殻であり、それも実にきれいな殻で、まるで脱皮殻のように見えました。そのためこのような残骸がなぜできるのかを調べるためにヒメイカの摂餌行動の詳細を観察しました。その結果ヒメイカは餌のアミやエビなどの甲殻類を捕えた後、これらの体内に口を長く伸ばして挿入して食べていることが分かりました。しかも餌生物の体内に挿入した口にある顎板でかみ砕いて食べているのではなく、中の組織が溶けるようになくなっていき、甲殻類の細い脚の中の組織も時間の経過とともになくなっていきます。このことからヒメイカは甲殻類の体内に挿入した口から消化液を注入して、消化された組織を飲み込んでいく“体外消化”と呼ばれる方法で餌を食べることが分かりました。また、餌の甲殻類をとらえた後、最初に麻痺毒を注入して逃げられないようにするため、自身の体の2倍以上の大きさの甲殻類も食べることが出来ます。甲殻類の体全体を包む殻は、ヒメイカにとって注入した消化液が外に漏れてしまうことがない便利な器のようなもので、ヒメイカにとって適した餌生物であることがわかりました。また“体外消化”の食べ方は他の頭足類ではふ化直後の小さな時期にのみ報告されており、体の小さなヒメイカが効率よく餌を食べ生きていくための戦略と考えられます。なおこれらヒメイカの生態観察は研究論文として発表することが出来ました。

捕えた餌(スジエビ)の体内に口(イラストの赤くぬった部分)を挿入して摂食するヒメイカ。ヒメイカの口は腕と同じ長さくらいまで伸ばすことが出来ます。

ヒメイカはこの写真のように1個体が餌を捕えた後に他の個体も同じ餌を食べる傾向が見られます。
ヒメイカはこの写真のように1個体が餌を捕えた後に他の個体も同じ餌を食べる傾向が見られます。
ヒメイカがスジエビを食べた後に捨てた残骸。まるで脱皮殻のように見えます。
ヒメイカがスジエビを食べた後に捨てた残骸。まるで脱皮殻のように見えます。

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