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名古屋港水族館とアメリカ大気海洋気象局(NOAA)とのアカウミガメの太平洋回遊経路解明調査

第9次放流 ウミガメの現在位置>>

アカウミガメは日本でお馴染みのウミガメといえますが、日本の沿岸では産卵にやってくる大きな雌個体と砂浜から生まれた直後の子ガメしか見ることができません。生まれたアカウミガメは、いったいどこでどのように暮らしているのでしょうか?名古屋港水族館ではこの謎の解明に挑んできました。

アカウミガメの回遊経路のかつての定説

海ガメは生涯のほとんどを海で過ごすと言われています。広い海へ散り散りに旅立った子ガメを探したり追いかけたりするのはとても困難なことです。海ガメの生態については、一部の事例を除きほとんどが謎のままでした。海ガメを研究したフロリダ大学のアーチー・カール博士は、かつて、海ガメが外洋で暮らしている間を「mystery of the lost year(失われた時間のなぞ)」と呼びました。
これまで考えられていたアカウミガメの子ガメの日本沿岸域からの回遊経路

絶滅危惧種アカウミガメのなかでも北太平洋域に生息するグループは、日本沿岸域を唯一の産卵場とし、アメリカ側には産卵場は存在しません。さらに、日本の海岸で生まれたアカウミガメの子ガメたちが、太平洋に旅立った後、成熟するまで、どこで、どのような生活をしているのか?という事が大きな謎に包まれていました。

成長過程にあるアカウミガメは日本沿岸では見られませんが、アメリカの西海岸やハワイ近海等では、しばしば日本生まれの子ガメが見つかっています。そのため、上の図に示すように日本の海岸を旅立った子ガメは、黒潮と北太平洋海流によりアメリカ側まで運ばれ、浮遊生物を食べて成長しながら、北赤道海流に乗って再び日本沿岸に戻ってくるのではないかと言われていました。
はい出しをするアカウミガメ
砂中からはい出すアカウミガメのふ化個体
(名古屋港水族館カメ類繁殖研究施設にて)
海に帰るアカウミガメ
アカウミガメ子ガメの日本沿岸域からの旅立ち(イメージ図)

生物の回遊経路調査に用いられるアルゴスシステムとは?

アルゴスシステム
アルゴスシステムの概要

渡り鳥や海ガメのように、長距離を移動する動物の経路等を調べる方法として、標識を取り付けて放流する方法があります。
しかし、この方法では移動経路というより、放流地点と再捕地点が分かるだけです。これに対して、右の図のような「アルゴスシステム」と呼ばれる人工衛星と電波発信機を用いた追跡システムでは、海ガメが海面浮上した際の位置が随時分かるので、点と点との間が短くできます。
問題点としては、電池の寿命と、発信器が外れるということがありますが、それまでの間、追跡を継続できる画期的なシステムです。
さらに、近年、小型かつ軽量の人工衛星追跡用送信機が開発され、これを甲長25cm前後、約1歳齢のアカウミガメに装着することが可能になりました。これは今まで送信機を装着して放流されたアカウミガメの中でも最小サイズで、たいへん画期的なことと言えます。
標識
左前肢に標識を取り付けられたアカウミガメ
標識拡大
標識を拡大したところ

名古屋港水族館とアメリカ大気海洋気象局(NOAA)のチャレンジ

放流されるアカウミガメ
放流されるアカウミガメ

そこで名古屋港水族館では、アカウミガメの太平洋における回遊経路を解明する試みとして、アメリカ大気海洋気象局(NOAA)との共同で「アルゴスシステム」を用いた調査を、2003年4月から行ってきました。

2003年と2004年の2ヵ年における調査では、(株)太平洋フェリーの協力を得て、房総半島沖から放流を行いました。その結果、個々のアカウミガメの行動を詳しく解析すると、日付変更線に近い北緯32度、東経176度付近海域は、 長い期間この場所にとどまる個体が多いことから、“アカウミガメの成育場 hot spot”として重要な海域であることが判ってきました。ところが、送信機に搭載している電池の寿命により、この海域を離れた後の追跡が出来ませんでした。

そのため、2005年5月と2006年10月には愛知県立三谷水産高校所属実習船「愛知丸」の協力を得て、送信機を装着した約80頭のアカウミガメ子ガメを成育場である海域まで運び放流することも試みました。 
送信機
送信機を着装しているところ
ホノルル入港歓迎
ハワイに入港した「愛知丸」を歓迎する横断幕

2004年までに放流したアカウミガメの追跡結果
カリフォルニア半島に到達したアカウミガメ
日本に向かっている(?)アカウミガメ

第1-8次調査のまとめ

成育場からの放流も含む、2003年から2007年までに行った合計200頭以上の放流の結果、子ガメは日本とアメリカを結ぶ北太平洋域の線上を移動していることがわかりました。

しかし、下図に示すように成育場から放流した子ガメの中には、アメリカ南端のカリフォルニア半島沿岸までたどり着いた個体もいた一方で、成育場から再び日本に向けて移動している個体も確認されました。
2003年から2007年の放流による、子ガメの回遊経路追跡全結果

アカウミガメの回遊経路についての新説!

そこでこれまでの追跡による個々の子ガメの行動と海洋観測データとをすりあわせて分析した結果、今までのアカウミガメの回遊経路についての定説は修正を必要とすることが分かりました。

アカウミガメはふ化後から遊泳力の乏しい間、いったん黒潮と北太平洋海流に乗って移動しますが、その後、“成育場”に流れ着いて暮らしていることが分かりました。“成育場”は暖流と寒流の混じり合う表層水温20℃位で、かつ餌生物が豊富な場所です。もしアメリカ西海岸を南下しても、”成育場”に戻ろうとするのです。成長後、日本沿岸へ戻る際も北赤道流に乗ってではなく、“成育場”から海流を遡って戻ると考えられます。

アメリカ西海岸に産卵場が存在しない理由は、ふ化したばかりの子ガメが流されるであろう北赤道流の表層には“成育場”のような餌場が存在しないからでしょう。

日本沿岸域から放流したアカウミガメの子ガメの分布イメージ図(copyright to Dr. Don Kobayashi). 
中央枠内の緑の部分で水温20℃位。青い部分はそれ以下の低水温帯を、赤い部分はそれ以上の高水温帯を示す。

第9次調査

これまでのアカウミガメの回遊経路調査は、房総半島沖からの放流を主体に行ってきました。房総半島沖は、北上してきた黒潮が東に向きを変えて、北太平洋海流へと繋がっていくポイントです。結果的には、房総半島沖はアカウミガメの子ガメにとって成育場に近いところでしたし、漁業で混獲される心配も少ない、好条件のポイントといえ、事実、大きな成果をあげてきました。

愛知丸今回乗船させていただいた「愛知丸」。カツオの一本釣りや沖縄でのスキューバダイビングなど様々な実習が行われています。

しかし、アカウミガメの産卵地は関東や中部よりもむしろ南の方に広く分布しています。そのなかでも屋久島は日本のアカウミガメの最大級の産卵地です。ここから巣立ったアカウミガメの子ガメたちもやはり黒潮にのり、日本近海を経由して北太平洋海流にのるのでしょうか?
それとも、全く別のところへ行ったりするのでしょうか? 

このことを調べるために、2010年4月7日、特別に水族館の職員3名が愛知県立三谷水産高校の実習船「愛知丸」に乗船させていただき、屋久島沖からのアカウミガメの子ガメの回遊経路を調べるために、子ガメ40頭(うち発信機を取り付けたのは29頭)を放流してきました。

今回の放流でまた新たな知見が得られると期待できます。また、水族館の開館時から約20年飼育されてきた雌のアカウミガメも伊勢湾口にて放流されました。 蒲郡港から放流地点の屋久島南方約50kmの海域まで2日間かかりましたが、船内では、高校生と共にウミガメの世話をしたり、水族館の仕事やウミガメの生態についてレクチャーを行うなど、大変有意義に過ごせました。

放流前のアカウミガメ
生きているウミガメを間近で観察する機会は滅多にありません。
ウミガメの世話
放流までの間、1日2回、高校生とともに水槽の水替えを行いました。
放流
ウミガメは海面までカゴで降ろして放流します。
レクチャー
放流場所に着くまでウミガメの生態についてレクチャーをしました。

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